マッタリ=1ダース【1p集】

第52話、スケベの季節

 小鳥がせわしなくさえずるある春の日、他に着るものすら持っていない私は、作業服のまま木の陰に隠れて、彼女たちが出てくるのを待っていた。

 もうすぐ授業が終わる。

 ──ただ闇雲に恋というものがしたかった。仕事仲間から聞いたのは、手っ取り早く捕まえに行く方法だった。上京して、全く別世界に住む彼女たちをモノにすれば、貧困からも逃れられよう。

 誰にでも春は来ない。平等や不平等で安易に表現できるものなら、どんなに気が楽だろう。騙されて笑い者にされるフシもあったが、元来、恋というものに憧れている彼らも、本能的に彼女たちを手に入れたいのだ。

 ならば彼女たちの方も、望んでいるかもしれない。想いを叶えてやろうとしているとも、言えはしないか?

 ──定刻通りチャイムが鳴った。計ったかのように、ぞろぞろと彼女たちが校門から出てくる。

 もしそのうちの一人を、木陰から引きずり込んだらどうなるのだろうか?

 声をあげる前に唇を合わせ、草むらに押し倒す。手足を押さえ付け、ブラウスの上から盛り上がった柔らかな身を揉みしだき、甘くくわえた時には、呼吸を超えたあえぎ声に変わっているだろう。そのままスカートを引き剥がし、さらにその奥を愛しくまさぐる。覆い被さった私の裸体に、木漏れ陽が模様を作るのだ。悦びで溢れるものの、うつろ。一筋の涙がほろりと垂れた暁には、既に事が成就している。

 彼女たちはそんな私のいる木の側を、楽しそうに通り過ぎて行く。何人も何人も、声だけが近くで踊る。

 ──彼女たちの賑わいが去った頃、気が付けば夕暮れになっていた。

 木に隠れていた私だったが、ただ膝を立て、ぽつんと座っていた。油で汚れた作業ズボンで、溜った手の汗を拭う。うつ向いて立ち上がった時、何かが落ちたようだった。石ころにでも当たったのか、響きもしない。

 振り返れば自分のボロアパートの鍵だった。キーホルダーの一つもなく、穴を晒している。

 私は拾いあげ、ズボンの後ろポケットが下がるほど、押し込む。

 大きく風を吸い、思わず溜め息を飲み込んだ。

 長い影を引きずり、まだ舗装もままならない、自分の居るべき町へと帰った。
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