君想歌
何か抜けられない用事が
出来たらしく口を尖らせた
栄太郎は機嫌が悪い。


風呂を上がった後に悠くんと
廊下であったから、恐らく
原因はそれか。


「しょうがないってば〜」


和泉はポンポンと肩を叩いて
慰めれば、


「和泉のケチっ」

「えぇぇ……」


ますます機嫌が悪くなる。


本気で非番が終わるまでは
一緒に居る気であったらしい。


「ね……。重くない?」


「重くないよ。
ちゃんと食べてるわけ?」

「食べてるよ」

会話を交わしつつ
歩を進める。

屯所までは少しばかり
距離がある。


歩けるようになったと言えども
覚束ない足取りで歩く和泉に
吉田は気が気ではなかった。


強制的に背に乗せ屯所まで
送る道程を吉田はゆったりと
歩いていた。


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