君想歌
平助から和泉の変化を聞いて。
からかってみたくなった。

恐らくあの反応は和泉でも
知らないうちに好いた奴が
心にいる証拠。


「今後の報告が楽しみだな。
くくっ」

土方は静かに笑い残った仕事を
済ませるために筆をとった。


*瀬戸和泉*

まだ温かい湯が張ってあった
風呂から上がり廊下を歩く。

季節は秋に近づいている。

数日で神無月に月も移り変わる。

雫を落とす長い髪を拭きながら
自室の襖を開けた。

風呂に出る前に敷いておいた
布団に寝転ぶ。

大して拭かれていない湿った
髪が広がるが気には止めない。

「栄太郎……か」

頭の中にちらつく笑顔が
消えない。

消したい。

和泉が新選組に身を置くのは
何故か。

これ以上に安全な所は
無いから。

斬り合いが頻繁に起こり
死が間近にあるから。

「……」

会わない。
もう会わないでおこう。

大切な人を失うのはもう嫌だ。


すっと目蓋を閉じると
和泉は眠りについた。

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