君想歌
「なんか。疲れてる……」

つい、と触れた人差し指は
目の下を撫でる。


「最近、物騒だから」


そういうと吉田は眉を寄せた。

「そっか……」


「でもちゃんと休んでるから」


吉田の心配そうな顔を見て
安心させるように微笑んだ。


「よかった」


ふわりと笑った吉田は
ようやく手を離した。


声を上げて思い出したように
起き上がった和泉に吉田も
上半身を起こした。


ごそごそと袴の帯に挟んだ
巾着を漁っていた和泉だが
目当ての物を見つけたのか
嬉しそうに吉田に差し出す。


「はい。これ」

吉田の手のひらには髪紐が
置かれている。


「前に私が使ってた髪紐。
あげる」


手に乗った髪紐は紫一色の髪紐。


出会った頃に付けていた物。


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