君想歌
無言でニコニコしながら髪紐を
渡してくる吉田に首を傾げる。

「髪、結ってよ」

「へ?」


和泉の手に髪紐を握らせると
背を向ける吉田。

どうやら反論する余地は
無いと思える。


仕方無く吉田の髪をまとめていく。


指の間から滑り落ちていく髪に
苦戦しながらも我ながら綺麗に
結えたと思える。


「和泉?」

いつまで経っても後ろから
動こうとしない和泉に吉田は
振り返ろうと身体をひねる。


「ねぇ……栄太郎。
やり遂げたい事ってある?」


視線は指先に落としたままで
和泉は問い掛ける。


「もし、あるなら。
栄太郎の邪魔になるなら」


最後まで和泉が言い終わる前に吉田の手が和泉の頬を叩く。


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