君想歌
ようやく静かになった室内で
和泉はそっと押し入れを開いた。

薄く白い紙に包まれたそれ。


包みを開けば中には
薄桃色の着物。

かなり小さくなってしまった
それを今も持っておく必要など
あるまい。

しかし何度も捨てようとしたが
思い留まってしまう。


記憶は案外消えないものだ。

どうでも良いものはすぐに
頭から消え去り。

一度恐怖を与えたそれは、
いつまでも燻り続ける。



指先は震え視界は揺れて
座り込む。

乱暴に押し入れを閉じると
荒くなった息を整える。


「……」


助けを求めるように
畳が引っかかれ。

部屋を飛び出していた。






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