航平さんと雨芽ちゃん
「航平、あの」
「菊田さーん!
そろそろ準備お願いします。」
雨芽の言葉にかぶせるように、後輩が部署のドアから顔を出して呼び掛けてきた。
「分かってるから、もう少し待ってくれ。
雨芽、何て言おうとしたんだ?」
「…ううん。
急ぎじゃないからあとで良い。」
後輩をたしなめて、雨芽に何を言おうとしたのか聞き直すと、そう返ってきた。
笑顔を作っては居たけど、今まで見た中で一番不自然な笑顔だった。
「雨芽。」
「後輩の人困ってるよ。
じゃあまた家で。
バイバイ。」
心配で名前を呼んだけど、聞く前にそう言われて送り出されてしまった。
手を振ると、下に行くエレベーターの呼び出しボタンを押した雨芽を見て、後ろ髪引かれる思いで戻った。