航平さんと雨芽ちゃん


「航平、あの」
「菊田さーん!
そろそろ準備お願いします。」
雨芽の言葉にかぶせるように、後輩が部署のドアから顔を出して呼び掛けてきた。

「分かってるから、もう少し待ってくれ。
雨芽、何て言おうとしたんだ?」
「…ううん。
急ぎじゃないからあとで良い。」
後輩をたしなめて、雨芽に何を言おうとしたのか聞き直すと、そう返ってきた。


笑顔を作っては居たけど、今まで見た中で一番不自然な笑顔だった。


「雨芽。」
「後輩の人困ってるよ。
じゃあまた家で。
バイバイ。」
心配で名前を呼んだけど、聞く前にそう言われて送り出されてしまった。

手を振ると、下に行くエレベーターの呼び出しボタンを押した雨芽を見て、後ろ髪引かれる思いで戻った。


< 86 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop