ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下


5年前、

初めて達也が私の部屋を訪れた時。


一夜明けて、部屋の隅に置かれていた小動物用のゲージを見つけた彼は、少し怯えた目をした。


ーー何かいるの?


インスタントコーヒーを淹れる私に訊いた。



ーー何もいません。
うさぎがいたけれど、死んでしまったんです。
可愛かったんですけど…

…早く片付けなきゃと思ってるんだけど。



ーーふうん。良かった……



片手を胸に当て、安堵した様子の達也に、私は食パンをトースターに放り込みながら訊いた。


ーーあら。唐沢課長、もしかして、うさぎ、嫌いなんですか?


ーーいや…嫌いじゃなくて、怖いんだよ。


ーー怖い?


笑いながら目を丸くする私に、
達也は思い詰めた表情で言った。


ーー実は、俺、うさぎ上皮アレルギーなんだ。

小学三年生の時、親戚が飼っていたうさぎを預かったことがあって。

俺も動物は大好きだから、抱いたりして喜んでたんだけど。

その晩、ひどい喘息の発作を起こした。救急車を呼ぶ騒ぎになった。

検査の結果、うさぎの毛のアレルギーが原因だと言われたんだ。

だから、うさぎが苦手なんだ、
というよりも恐ろしい。



ーーそうなんですか…大変だったのね



達也の話は、5年前、3歳だった亜樹斗が喘息発作を起こした時の騒ぎを思い起こさせた。


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