水のない水槽
「しょーがねーなぁ。そろそろ着くから、これでも飲んどけ」


手にしたコンビニ袋から出てきたのは、苺ミルクの小さいパック。

「木下、これ好きだっただろ? まあ、飲んだあとの飲み物じゃないけどさ(笑)」


ホイッと渡されたそれには、すでにストローが刺さっていて。


そんなさり気ない優しさに、止まりかかっていた涙が零れてしまう。


先輩が、先輩の好きな人が、なんでわたしじゃないんだろう――。


言葉にできない想いで、胸の奥がギュッと苦しくなった。


俯いたまま、ストローを咥えれば、苺ミルクの優しい味。


「今だけ、な」


不意に先輩の手が肩に伸びてきて、わたしを一気に引き寄せた。


「着くまでに泣きやめよ」


まるで子どもをあやすように、優しく肩を撫でる先輩の手。


――さっきまでの苦しさが、甘い時間にかき消されていく。


苺ミルクの優しい味に溶かされて……。
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