ヒールの折れたシンデレラ
宗治に連れてこられたのはよく通うという小さな寿司屋だった。

カウンターしかない小さな店内では、宗治が大将と呼ぶ六十代ぐらいの男性とその奥さんとおぼしき人が立っている。

「いらっしゃい」と声をかけられて一番奥のカウンターに歩いていく宗治の後に続く。

腰掛けると、すぐに温かいおしぼりが渡されてそれで手を拭きながら宗治が大将に冷酒を勧められている。

「千鶴、冷酒飲める?」

「うん。好き」

千鶴の答えを聞いておすすめの冷酒を注文してくれた。

渡されたグラスギリギリに注がれたれ冷酒をこぼさないように口をつけて一口飲む。

「ん~おいしい。なんか甘くていくらでも飲めそうです」

思わずでた感想に宗治と大将は満足そうだ。

「ぐいぐいいってると、あっという間によっぱらうぞ」

のどの奥で“くくっ”と笑いを込めて宗治が言う。

「大丈夫です。私少なくとも宗治さんよりも強いですから」

「あのなーあの時は仕事で疲れてて……」

「はい、いいわけしなーい」

自分で思っていた以上にきちんと会話ができていることに千鶴は安心した。
< 139 / 217 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop