ヒールの折れたシンデレラ
「こちらはお客様がいます。お二人とも冷静になってください」

頭からシャンパンを被った千鶴が華子と艶香をなだめる。

二人ともさすがにことが大きくなりこれ以上言い争いを続ける気はないようだ。

スーツのポケットに入れておいたハンカチで顔についた水分をぬぐおうとするとその手をぐいっと引っ張られた。

引っ張られたほうに強制的に顔を向ける。そこには眉間にしわを寄せた宗治が立っていた。

「いったい何やってるんだ」

小さな低い声で言われて驚く。

「喧嘩の仲裁です」

「それでそんなずぶ濡れになるの?」

「成り行き上こうなってしまいました」

苦笑いを浮かべて話す千鶴の腕を宗治は引っ張り歩き始めた。

急に歩き始めた宗治に引っ張られて、つんのめりながら千鶴も足を進める。

「あのいったい、どこに行くんですか。私受付……」

「勇矢にまかせればいい」

千鶴を一切みずにどんどん進んでいく。

エレベーターに乗せられてからも無言で、最近では宗治に感じていなかった気まずさを久しぶりに感じていた。

つかまれた腕はまだ放されていない。

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