ノーチェ
沈んでゆく夕日を最後まで見届けると、あたしはゆっくり言葉を吐いた。
「…薫は、きっと望んでないと思います。」
あたし、何でこんな事言ってるんだろう。
だけど、あたしと薫は似てる。
手に取るように、彼の苦しみがわかる。
それが何故なのかはわからないけれど、唯一あたしと薫が違うのは
…相手の幸せを願えない事。
あたしは、桐生さんの幸せを薫のように喜んであげられない。
彼と過ごす時間を、自分からは手放せない。
だからかな。
こんなふうに偽善者ぶって薫の味方でいたい、なんて思うのは。
氷が溶けたブラックコーヒーをストローで掻き回すと、百合子さんは小さく溜め息をついた。
「…そうね、薫はあの病院を継ぐ事を拒んでるのかもしれない。」
だけど、と少し間を置いて彼女はあたしを真っ直ぐに見つめてくる。
「…私が、それを望んでいるの。」
…あたしは、そんな彼女に視線を返せなかった。