ノーチェ


「呼んだんだけど、仕事忙しいみたいで。」

「…そうなんだ。」


菜月を見ると、親戚と笑顔を交えながら話し込んでいる。



ふわっと遠くから冷たい空気が吹いて、あたしは肩に掛けたストールを首元まで上げた。


「…実はずっと、薫から話は聞いていたんだ。」

「……そっか。」

真っ白なタキシードが眩しくて、あたしは目を細める。




時たま聞こえてくる笑い声から離れ、啓介くんはポツリと呟いた。

「…あいつ、心配してたよ。莉伊ちゃんの事が気掛かりで仕方ないって。」

「……………。」


ぎゅっと、ストールを握り締める。




「……莉伊ちゃんにしたら、思いもしなかった事なんだろうけど…。」

視界の端で
菜月のウェディングドレスが揺れていた。



「薫は、出会った日からずっと…莉伊ちゃんに惹かれてたんだよ。」



――真っ白な、純白が薫の心のように見えたのは

気のせいだろうか。



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