ノーチェ


啓介くんの左薬指にはめられた結婚指輪が光る。

それは、菜月の左薬指に光る指輪と同じ輝きで光っていた。



「…まさか、莉伊ちゃんが勇人さんと……。」

俯き、言葉を濁す啓介くんにあたしは何も言えなかった。



…そっか。


啓介くんは薫と幼馴染みで、百合子さんの事も

そして桐生さんの事も知ってるんだ…。




ぎゅっと唇を噛み締めて俯いていると

「…でも、」と啓介くんが口を開く。



「勇人さんとは、薫と出会う前から…だったんだよね?」

その痛い程の視線に
あたしは黙ったまま頷いた。




そう、もしも。


…もしも、桐生さんよりも早く薫に出会っていたら。



もっと、違う選択肢があったのかもしれない。

だけど、時間を戻せる訳じゃない。




これは、神様が下したあたしへの罰。




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