ノーチェ


もしも
あたしが桐生さんと付き合ってなんかいなくて

そのまま、薫と出会っていたら。



あたしは、薫を好きになっていたのかな。

同じように、惹かれていたのかな。




だけど、あたしは思うんだ。



同じ痛みを分かち合い、お互いの傷を癒し合ったあたしと薫。

だからこそ、二人は出会えた。



だからこそ、こんなにも薫が大切に感じるんだって。


そう、思うの。




再び訪れた沈黙に
先に口を開いたのは啓介くんだった。


「余計なお世話かもしれないんだけどさ。」

ガサっとジャケットのポケットから紙切れを取り出した啓介くん。



「……莉伊ちゃんを想う薫の気持ちは、一生変わらないと思うんだ。」

その言葉にテーブルに置かれた紙切れを、そっと持ち上げる。



【塚本総合病院 集中治療室】



「薫は今、百合子さんの所に居るよ。」



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