ノーチェ
真っ赤に染まった瞳。
その薫の視線に
あたしの胸が、鋭く痛んだ。
「………来て、くれたのか。」
最初に薫が口にしたのはあたしを罵る言葉でもなく
百合子さんを労る言葉だった。
あたしは何も言えずに、そのまま視線を床に下げる。
涙がこぼれそうだった。
だけど、あたしよりももっと泣きたいのは薫だ。
だから、涙がこぼれないように唇を噛み締めた。
あたしから目を逸した薫は
「…もう、ダメだって。もう、保たないって。」
そう言って、ガラス張りの集中治療室の中、幾つもの機械に囲まれた百合子さんを見つめた。
「……薫…。」
何て言葉を掛けていいのかわからない。
自分があまりに無力すぎて、あたしは呆然と薫の切なく揺れる横顔を見つめる。