ノーチェ
………………
「…はぁ、はぁ…、」
呼吸が切れて、息が上手く出来ない。
だけどあたしはそれでも走った。
冬の冷たい風は容赦なくあたしを吹き付けて。
そして、視界に見えたのは視野いっぱいに広がる
塚本総合病院。
この街で不動の存在感を持つ塚本総合病院は
そびえるどの建物よりも堂々とあたしを見下ろしていた。
ごくり、と喉の奥に唾を飲み込む。
あたしは深く息を吸い込んで気持ちを落ち着かせると、一歩塚本総合病院に足を踏み出した。
…カツン、と歩きを進める度パンプスが廊下に響く。
それは、永遠に続くような長さにも感じて。
だけど、遠くに見えたその姿にあたしの鼓動が加速し始めた。
そしてもう一度、カツンとパンプスが鳴って
顔を上げた薫にあたしの足が止まる。
「……莉伊…?」