ノーチェ
桐生さんは澄んだ空気を吸い込むように腕を伸ばして体を伸ばす。
あたしはそんな彼の後ろ姿を髪をかき上げて見つめていた。
「ここさ、」とふいにあたしに視線を向けた桐生さんは笑って言った。
「俺の、生まれ故郷なんだ。」
「え?」
キョトンとしたあたしを尻目に桐生さんは車に寄り掛かって煙草に火を付ける。
森林の空気に煙が宙に上がり、やがて消えた。
「…どうした?」
ボーっと辺りを見渡すあたしに桐生さんが車越しに尋ねてくる。
「あ、ううん。ちょっと意外で…。」
慌てて首を振ったあたしに「意外?」と
目配せをする。
「桐生さんって、都会育ちってイメージがあったから…。」
そう落とすように呟くと彼は声を上げて笑った。