ノーチェ
体からじゃない、指先から、掌から
彼の温もりを感じる。
それが、こんなに甘いものだなんて
思いもしなかった。
繋がる事でしかなかったあたしと彼が
今はたった指先しか触れていないのに、どうしてこんなにも幸せなんだろう。
緩む顔を隠すように俯いたまま、あたしは桐生さんの歩幅に合わせた。
しばらく畔道を歩いてたどり着いたのは、小さな湖畔の横に佇む平屋の校舎。
「ここが、俺が通ってた小学校。」
「小学校?」
防犯の為のフェンスすらないその校舎のグランドには、小さなブランコと鉄棒しかない。
校舎の周りには、学校を囲むように生い茂る杉の木。
桐生さんがここに居た、と想像する事はやっぱり出来なかった。