Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
だが、まだお勉強をする気分でない宇佐美が、口を開いた。
「先生は、夏休み何かあった?ひと夏の経験とか……?!」
「……ひと夏の経験……?!」
無視すればよかったものを、みのりは無意識に宇佐美の問いに答えてしまった。
宇佐美の方を見た拍子に、そのななめ後ろに座っている遼太郎と目が合った。
不意打ちを食らって、遼太郎を意識してしまったみのりの顔が、みるみる真っ赤になる。
「ああーっ!先生。赤くなったー!」
「何があったのー!?ひと夏の経験、聞きたーい、先生ー!!」
宇佐美をはじめ、生徒たちはみのりを冷やかした。高校3年生とはいえ、こういう時はとても子どもっぽい。
「………!!」
みのりは「何もない」と答えようとしたが、胸の鼓動が激しく脈打ち始め、手の甲を口に当てたまま何も言葉を発せられない。
今日は極力、遼太郎のことは見ないように心がけようと思っていた。
そして、たとえ遼太郎を見ても、平静を保っていようと心に決めていた。
だが、席替えをしていて、どこに遼太郎がいるのか確認できていなかった。心の準備をしていないまま、ダイレクトに目が合ってしまい、心の動揺を映して顔の方が勝手に反応してしまった。