Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 もちろん〝忘れ物〟などないので、職員室に戻る必要はない。踊り場の壁に額を付けて、手のひらで顔を覆った。


「……不覚……。」


 またしても生徒の前で醜態をさらしてしまったことも、みのりの動揺を大きくしていた。

 吸って、吐いて、吸って、吐いて…。

 大きく深呼吸をしてから、気持ちを落ち着けようとみのりは努力する。あまり教室を不在にして、授業に穴をあけられない。
 しかし、焦る気持ちが加わると、なかなか制御が利かなくなる。


――落ち着いて。私がこんなんじゃ、狩野くんの方は、きっともっと困ってしまう……。


 不思議なことに、遼太郎の気持ちを考えると、みのりの動揺はスーッと落ち着いていった。頬の紅潮も引いていくのが、自分でもわかった。


 みのりは気持ちを切り替えて、教室へと戻る。教室のドアを開けて入ると、


「ごめんね。」


と、何事もなかったようにニッコリした。

 そして、プリントにしている全県模試の過去問を配り始めた。


「さて、これから全県模試までは、教科書はちょっとお休みにして、補習の時と同じく、模試の演習をします。」


と、プリントが行きわたったのを確認しながら説明する。このまま、普段通り授業が始まれば、なんとか乗り切れそうだ。



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