Rhapsody in Love 〜約束の場所〜


 スクラムの最後尾にいる相手側のナンバー8が、ボールを抱え出す。すぐに相手のスタンドオフにパスするのが定石だが、スクラムのサイドを抜ける攻撃もありうる。
 案の定、密集のサイドを相手ナンバー8はそこを抜けてきた。ここを止めなければ、ピンチになるのは必至だった。

 この攻撃を想定していた遼太郎は、ためらわず正面から、自分より体の大きな相手にタックルに行った――。


「……ああっ!!――狩野くん!!」


 突然、みのりが大きな声を上げたので、隣にいた遼太郎の母親は驚いてみのりを見る。


「何?どうしたの?」


「今、狩野くんが……。」


 様子を窺うように、みのりは密集の方を見遣り、言葉を途切れさせる。


 タックルされたナンバー8はボールを落としてしまい、タックル自体は成功したようだが、遼太郎は同じく相手を止めに行った味方のセンターと交錯し、激しくぶつかり合ってしまった。


 ここでスクラムとなるので、レフリーの塩尻によりゲームが中断される。遼太郎は依然として、グラウンドの土の上に横たわったままだ。

 ようやく密集の中から手を引っ張られて起き上がった遼太郎の顔には、遠目でも真っ赤な血が目に付いた。


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