Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「ああ、ダメ。狩野くん。下向いてて。血が喉へ落ちるから。」
その場でみのりが遼太郎へと声をかけると、戸惑ったように遼太郎は視線を落とした。
「いや、顔も歪みもないし、腫れも大したことないから骨折もない。マウスガードをしてるから歯も折れちゃないと思うんだが…。ただ……。」
と、マッチドクターは言葉を途切れさせて、落ち着かなげに自分の体を揺すった。
そのただ事ならぬ様子に、一同は深刻な事態を危惧し、緊張を高めてドクターを見つめた。
「わしが……、昼に食べたものに当たったらしい……。」
「は……?」
一同は一様に絶句する。
ドクターは青い顔をして、手で腹を押さえて目をつぶった。腕に鳥肌が立っているので、猛烈な痛みと闘っているのは判る。
「そ、それじゃ、先生。トイレに行ってください。この選手はこちらで何とかします。」
メディカルサポーターは、そう言ってマッチドクターをトイレへと送り出した。
そうは言ったものの、このメディカルサポーターは名ばかりらしく、遼太郎の大量出血を見て、どうしようかとうろたえている。マネージャーはもとより、この状況に怯えた様子だった。
しかし、もたもたしていると試合が終わってしまう。みのりは意を決して、遼太郎の隣でしゃがみ顔を覗き込んだ。