Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



「鼻血だけ?口の中は切ってない?」


 鼻から下がジンジン来ている遼太郎には、どこがどういうふうに痛いのかさえも分からなかった。言葉には出せず、ただ首をひねる。


「うん、分からないか。ちょっとここ、鼻の付け根をぎゅっと押さえてて。」


と、マネージャーを振り返って指示し、みのりは立ち上がると手に消毒液を擦り込んだ。


「狩野くん、マウスガード外せる?」


と、口の前に手を添える。

 だが、鼻から下が痺れているので、マウスガードを外せるまでは、うまく口を開けられない。


「よし、ちょっとだけ口開けられる?」


 遼太郎が微かに口を開くと、みのりは遼太郎の口に自分の指を突っ込んだ。マネージャーはみのりのその行為に驚いて、凝視する。

 静かに歯の食い縛りを解くように促して、みのりは遼太郎の口の中から、ドロリとした血にまみれたマウスガードを取り出した。


 ポケットにあるハンカチにそれを取って、


「すみません。洗ってきて頂けますか?」


と、メディカルサポーターに渡す。


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