Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 その時、歓声が上がった。遼太郎の鼻を押さえながら、みのりが振り向く。


「あぁ…。」


 みのりの落胆混じりの声に、遼太郎は顔を上げようとしたが、みのりに制された。


「相手側がトライを決めたみたい…。」


 これを聞いて、遼太郎の焦りはいっそう大きくなった。


「試合に戻らないと……、スタンドの俺がいなきゃ……。」


 そう言って、遼太郎は立ち上がろうとする。
 マウスガードを洗って戻ってきたメディカルサポーターが、


「出血退場なんだから、血が止まらないと戻れないよ。」


と、遼太郎を制止する。


 マネージャーもタオルを濡らして戻ってきたので、みのりをそれを受け取って、遼太郎の顔を覗き込む。


「うん、まだ血が出てるから…。もうちょっと待って。」


 遼太郎はいらだたしげに、歯を噛みしめた。


「焦って興奮すると、鼻血はなかなか止まらないよ。」


 みのりにそう言われ、その通りだとは思うけれども、残り時間が少なくなり、同点になったとあれば、とても心を落ち着けるのは無理だ。



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