Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 水に濡らされた冷たいタオルが、遼太郎の鼻から額に当てられ、再び小鼻の上をギュッと押さえられた。
 そのタオルを通してみのりへと、遼太郎の焦りと動揺が伝わってくる。

 みのりは遼太郎からメディカルサポーターへ視線を移した。


「何度も頼んで悪いんですけど、このバケツの中身捨ててきて下さいますか?」


 それからマネージャーにも、同じように依頼する。


「それと、もう一枚濡れたタオルをお願いできる?」


 二人がその場を離れると、みのりは遼太郎の頭を両手で抱えたままで語りかけた。


「大丈夫、まだ時間はあるから。それに、狩野くんがいない間も、仲間たちが頑張って持ちこたえてくれてるから、信じよう。」


 先ほどとは違うみのりの深い声に、遼太郎のいきり立っていた気持ちが和いでくる。


「大丈夫。血はすぐに止めてあげるから。」


 目がタオルに覆われた暗闇の中で、遼太郎はみのりの声が心に沁みてくるのを感じた。

 乱れている呼吸が、少しずつ整ってくる。


 グラウンドに背を向ける形で立っていたみのりは、遼太郎の汗と土で汚れた頭を胸元に抱き寄せ、自分の頬を遼太郎の頭に付けた。


「……大丈夫。絶対負けたりしないから……。」


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