Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「…何ですか?」
遼太郎の問いかけに、みのりは肩をすくめて首を横に振り、ほのかな笑みを浮かべた。
みのりの意味深な行動に、遼太郎の心はざわめいたが、平静を装って同じような微笑みを返す。
不意に遼太郎は、みのりが手にしている先ほど渡したタオルが、予備のきれいなものではなく、自分が使ってしまっていたものだと気が付いた。
心の中で「しまった…!」と舌打ちしたが、今更言い出すこともできず、微笑みは崩さないままみのりを見つめる。
そして、その動揺を押し込めて、気を取り直すように、
「車はどこに停めているんですか?」
と、遼太郎は訊いた。
「ああ、セミナーハウスのところ。駅にいちばん近いから。」
みのりがそう言うと、遼太郎は自転車の進路をセミナーハウスへ向かう小路へと変えた。
セミナーハウスの前には、もう人影もなく、みのりの自動車がひっそりと一台だけ駐車されていた。
小さな街灯が一つだけ灯る下で、遼太郎はみのりが車へと歩み寄るのを見守った。
みのりは、遼太郎が部室の方へ行くのを見送ろうと車に乗り込まないでいると、
「乗ってください。」
遼太郎がしっかりした口調で言った。