Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 有無を言わさない感じに圧され、みのりが車に乗り込むと、遼太郎は窓から中を覗いて、


「ロックもして下さい。」


と言った。


 みのりが言われるがままドアをロックしエンジンをかけると、遼太郎は安心したような表情をして、自転車を走らせ始めた。
 みのりの車はヘッドライトで遼太郎の姿を照らし、その後を追うように走った。


 小路から出るとき、遼太郎はチラリと振り向いて、みのりへと会釈をすると、今二人で歩いてきた方へと曲がった。みのりの家は反対方向なので、そこで遼太郎の姿は見えなくなる。


――そう言えば、狩野くん。部室に忘れ物があるって言ってたけど…?


 でも、ラグビー部の部室は、遼太郎の曲がった方にはない……。


 その時、みのりはハッと気が付き、胸の鼓動が一つ大きく打った。呼吸が乱れ、ハンドルを握る手に力が入る。


――狩野くん…。私を車まで送ってくれたんだ……。


 泣いたみのりの気を紛らわせようと、取り留めもない話をして寄り添ってくれた。
 「忘れ物をした」という優しい嘘をついて、暗い夜道をみのりが一人で歩かなくてもいいように、さりげなく車まで送ってくれた。


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