Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 それでも、あの時みのりは、自分に会って安心したから涙を見せたのだと思うと、遼太郎は却って嬉しさのような感覚を覚えた…。




 金曜日の朝に、みのりは遼太郎のタオルを返してくれた。木曜日はみのりの初任者研修で、会えなかったからだ。


「返すのが遅くなって、ごめんなさいね。」

「いえ…。」


 遼太郎は会釈をしながら、それを受け取った。そのタオルを見て、それを使ったときのことを連想し、吉長のことに思いが及んだ。


「あの日は、箏曲部の大会で大変なことが起こってたんですね。」


 遼太郎が考えた面接の返答に目を通し始めていたみのりが、驚いたように目を上げた。


「…生徒の間で噂になってる?」


 険しい顔のみのりに、遼太郎も神妙になって答えた。


「と思います…。俺の耳にも入ってくるくらいだから。」

「そう…。」


 みのりはその口調に、心配を漂わせた。


「あの…、前に先生が調子悪そうって心配していた生徒ですか?」


 おっと鋭いな…というふうに目を丸くして、みのりは遼太郎を見つめたが、すぐに目を逸らし、


「ごめん。それは、たとえ狩野くんが相手でも、言えないんだ…。私たちには守秘義務があるから。」


と、申し訳なさそうな表情になった。


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