Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
「私の方こそ、ごめんね。ドンくさいの、狩野くんに付き合わせちゃったね。」
みのりは遼太郎のノートを拾い上げて、手渡しながらもう一言付け足した。
「それに、私はもう〝可愛い〟って歳じゃあないわ。」
ちょっと寂しそうな笑顔を残して、職員室へ足を向ける。
いつもの遼太郎ならば、このままみのりの後ろ姿を見送るのだが、今日の遼太郎は意を決して追いかけた。
「先生。」
と、職員室へ入ろうとしていたみのりの横に立つ。
「先生は本当に可愛いです。顔とか見た目だけじゃなく、…その、先生の言う『ドンくさい』ところとかも。」
みのりは驚いたように目を丸くしていたが、遼太郎はそれだけ言うと、その後のみのりの反応を確かめることなく走り去り、教室へ向かう階段を駆けあがった。
まるで「好きだ」と告白をしてしまったみたいに、心臓がバクバクと跳ね上がっている。
でもいつかは、もっときちんと自分の気持ちを伝えなければならない日が来る――。
その時は、いったい自分はどうなってしまうんだろう…と、遼太郎は大きな息を吐きながら、教室へ入るために必死で気持ちを落ち着けた。
その日の日本史の授業は3限目だったので、そのころには幾分遼太郎の気持ちも落ち着いていた。