Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
みのりはしばらく、もう一度夢を見るように甘く幸福な記憶の中を漂った。その圧倒的に安らかで甘美な感覚に、みのりは魅了されそうになる。
遼太郎に思いの丈を伝えて、ずっと一緒にいてくれるよう懇願したくなった。きっと優しい遼太郎は、これからもみのりが望めば今日のように守ってくれるだろう。
……でも、それは遼太郎が自分を好きでいてくれるから、そうしてくれるのではない。
自分が遼太郎の恩師だからだ。自分に対する礼儀や義理のようなもので、恋愛感情ではない。
ただ――、遼太郎は真心を込めてくれるので、勘違いしそうになる。
あの遼太郎の優しさを、自分が独占することはありえない。
心のきれいな遼太郎は、他の誰にも同じように誠意をもって接してあげるはずだ。大学に入れば誰かしらと心が通じ合い、親しく付き合うようになるだろう。その時遼太郎の優しさは、誰でもないその彼女のものとなる。
いくら遼太郎に身も心も焦がしても、この恋は報われることはない。そもそも、30歳を迎えた女が、高校生にのぼせているなんて滑稽でしかなく、当の遼太郎にとっても迷惑な話だろう。
それでも今日の出来事は、麻薬のようにみのりの心を痺れさせ、遼太郎を恋い慕う想いをもっと強く深いものにした。
その息も吐けないような想いは、未だに残る発熱での体の火照りと同化して、しばらくみのりを苦しめた。