Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
今日の寒さも手伝って、みのりの心も凍って固まっていた。きっと遼太郎の晴れの姿を見ても、泣くことはない。心を痺れさせて喜怒哀楽に鈍感になり、今日一日を乗り越えようと決心していた。
ただ、今日の遼太郎の姿をできるだけ記憶に留めておこうとは思った。遼太郎の姿を見るのは、みのりの人生の中で、きっと今日が最後になるだろうから。
遼太郎の今日の姿を思い出す度に、みのりはこれからの長い一生涙することになる。だから、今日だけは泣かずに笑顔で送り出すことを、みのりは心に誓っていた。
荘厳な音楽が流れ始め、卒業生が入場する。
皆よりも頭一つ飛び出している二俣がいるので、1組がどこにいるのかすぐ分かる。担任の澄子を先頭に、1組の面々は姿を見せ、所定の位置に着いた。
いつもは半分ふざけているような生徒たちが、今日は神妙な顔をしているのが、何とも微笑ましい。みのりは思わず頬が緩みそうになったが、チラリと遼太郎の姿が目に入るなり、歯を食いしばった。
文武両道・質実剛健を校風に謳う芳野高校の卒業証書授与式は、きわめてシンプルだ。感動を助長するような演出はまるでなく、粛々と式は進められる。
一同礼の後、教頭の開式の辞で始まり、国歌斉唱・校歌斉唱があって、そのあとはいきなり卒業証書授与となる。