Rhapsody in Love 〜約束の場所〜


 艶やかな姿の澄子が、緊張した面持ちで、マイクの前に進み出た。愛情のこもった深い声で、澄子が一人ひとりの名前を呼ぶと、生徒たちは返事をして起立する。


 阿部、井上、衛藤、遠藤、小野、そして――。


「狩野遼太郎。」


「はい。」


 一瞬だったが体育館に響き渡ったこの声を、忘れたくないと、みのりは記憶に刻み付けた。

 彼とすぐに判る後ろ頭を見つめていると、目頭が熱くなって、心を覆う氷が融け出してくる。
 込み上げてくるものを押さえ込むように、みのりは奥歯を噛み締めた。すると、鼻の奥にツンとした痛みが走る。


 それにも耐え、何とか泣かずに、元の氷で閉ざした心に戻れた時にはもう、5組の担任がマイクの前に立っていた。

 それから、全卒業生の名前の読み上げが終わると、卒業生代表が卒業証書を授与される。この代表の生徒は、東京大学に合格を決めている秀才だ。

 その後、校長の式辞、来賓の祝辞があり、現生徒会長の送辞、前生徒会長の答辞で、この式のクライマックスを迎える。
 参列者それぞれの胸には色んな思いが渦巻いているのだろうが、式は滞りなく進められた。

 卒業生による記念品贈呈、保護者代表の挨拶が終わり、「仰げば尊し」の斉唱の時には、卒業生からすすり泣きが聞こえてきた。

 この場で堂々と泣けるということは、きっと悔いのない充実した高校生活が送れたのだろうと、みのりは思った。


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