ウソつきより愛をこめて
「…はい」
出来るだけ無愛想な声で電話に出る。
美月が興味深々な視線を送ってくるから、私は慌てて立ち上がり玄関の方に移動した。
『寧々は…ちゃんと寝たか』
電話越しでもわかるほど寂しげな声に、胸がチクリと痛む。
寧々に会えないことが、そんなに辛いの?
悪いのは橘マネージャーなのに、なんだか私のほうが悪いことをしている気分になってくる。
「寧々ならもうとっくに寝た。…要件はそれだけ?」
『いつまで俺を避けるつもりだ』
「…別に、避けてないけど」
『今日も後でって言ったくせに、結局何も話せてないだろ。お前、俺の車降りてすぐ相沢の部屋に逃げたよな』
「い、今話せばいいじゃない」
『ダメだ。俺は直接会って、顔見ながら話がしたい』
橘マネージャーが見たいのは、私じゃなくて寧々の顔に違いない。
そんなことわかっているはずなのに、心臓の音は電話越しの声を聞いているだけで激しさを増していた。
『…明日、会えるか』
「……え?」
『お前も俺も休みだろ』
「えっと…その」
なんだか断るのが後ろめたくて、声がどんどん小さくなっていく。
明日は確かに今年最後の公休日だけど…当たり前の様に橘マネージャーには内緒で出勤するつもりでいた。