ウソつきより愛をこめて

「ごめん…明日は忙しいから。会うのは無理」

『……』

電話の向こうの沈黙が怖い。

バレてないよね?

一応バイトの子にも他の社員にも、私が出ること口止めしてあるんだけど…。

このまま間違ったふりをして通話を終了してしまおうか。

そんな安易な考えが頭をよぎったけど、さすがに後が怖くて実行する気にはなれなかった。

『…わかった』

その直後意外にもあっさりと引いてくれた橘マネージャーに、私はほっと胸を撫で下ろす。

「それじゃあ、」

『…結城』

別れの言葉で締めくくろうとした私を、橘マネージャーの凛とした声が遮っていた。

『頼むから、勝手にいなくなったりすんなよ』

「……っ!」

息が止まるかと思った。

“もうどこにも行くな…っ”

あの夜見せた彼の切ない表情と声が、頭の中を駆け巡る。

…あれはやっぱり、本心だったの…?

『つーか早く機嫌直して帰ってこい。寧々と遊べなくて、俺がどれだけ落ち込んでるかわかってるのか?』

「…ロリコン」

『バーカ。…勝手に言ってろ』

もう勘違いさせないで。

声を聴いてるだけで、胸に温かいものが溢れてきてしまうから。

「…タバコ止めたら、帰ってあげてもいいよ」

そう言ったら電話の先で狼狽えてしまった橘マネージャーに、私はいつの間にか満面の笑みをこぼしていた。

< 107 / 192 >

この作品をシェア

pagetop