ウソつきより愛をこめて
「ごめん…明日は忙しいから。会うのは無理」
『……』
電話の向こうの沈黙が怖い。
バレてないよね?
一応バイトの子にも他の社員にも、私が出ること口止めしてあるんだけど…。
このまま間違ったふりをして通話を終了してしまおうか。
そんな安易な考えが頭をよぎったけど、さすがに後が怖くて実行する気にはなれなかった。
『…わかった』
その直後意外にもあっさりと引いてくれた橘マネージャーに、私はほっと胸を撫で下ろす。
「それじゃあ、」
『…結城』
別れの言葉で締めくくろうとした私を、橘マネージャーの凛とした声が遮っていた。
『頼むから、勝手にいなくなったりすんなよ』
「……っ!」
息が止まるかと思った。
“もうどこにも行くな…っ”
あの夜見せた彼の切ない表情と声が、頭の中を駆け巡る。
…あれはやっぱり、本心だったの…?
『つーか早く機嫌直して帰ってこい。寧々と遊べなくて、俺がどれだけ落ち込んでるかわかってるのか?』
「…ロリコン」
『バーカ。…勝手に言ってろ』
もう勘違いさせないで。
声を聴いてるだけで、胸に温かいものが溢れてきてしまうから。
「…タバコ止めたら、帰ってあげてもいいよ」
そう言ったら電話の先で狼狽えてしまった橘マネージャーに、私はいつの間にか満面の笑みをこぼしていた。