ウソつきより愛をこめて
「そ、そんなの知らない。ていうか…腕、早く離してよ」
まだ朝早くて誰も出勤していないからいいけど、もしこんな場面見られてしまったら変な噂が立ちかねない。
また…ゆりちゃんの時みたいに、誰かに辞めるなんて言われたら…。
「いいから帰るぞ。お前が休日出勤してまで働く必要はない」
橘マネージャーが私の腕を離すまいと強引に引き寄せる。
その瞬間爽やかな香りが私の鼻腔をくすぐって、心拍が一気に急上昇した。
や、やっぱり近づくと変に意識しちゃう…!
「帰らない。ゆりちゃんが辞めちゃったのは私のせいなんだから、私が代わりに働く!」
「いいか結城。そんなことして身体壊したら、元も子もないぞ」
「…そうですよぉ」
「……!」
聞こえるはずのない女の子の声が確かに聞こえて、私ははっと後ろを振り返る。
「ゆり…ちゃん?」
あれから一週間以上見ることのなかったその姿に、私は驚きのあまり声を失っていた。
「ずっと無断欠勤していて、本当に申し訳ありませんでした」
…私は夢でも見ているんだろうか。
お客様のクレームにすら頭を下げたことのなかったプライド高いゆりちゃんが、彼女を散々叱り飛ばした私に向かって頭を下げている。
「どうか、もう一度ここで働かせてください…っ!」