ウソつきより愛をこめて

「…すみませんね。誰にも見られたくない程変な顔してて」

「ああ。なるべく俺以外の男の前では見せない方がいい。…お前隙だらけだから、すぐ食われるぞ」

「……!」

言われたことの意味を理解した瞬間、また顔が熱くなる。

「た、橘マネージャーが…一番危険だと思いますけど」

「バカ言え。俺程安全な奴はいない」

あの夜のことを覚えてないから、そんなことが言えるんだ。

下心のない男なんて、この世にいるわけないんだから。

「…そんなこと言って、私なんかを助手席に乗せたら怒る女の人とかいっぱいいるくせに」

2年前とは車も変わってるけど、彼が運転する車の助手席に乗ったのはこれが初めてだ。

ハンドルを握るゴツゴツした手や、横に並ぶとより私との違いが顕著にわかる長い手足。

なんだかさっきから、変なところにばかり目がいってしまう。

「そんな奴ひとりもいない」



私は今でも、あのことを根に持ってる。

普通彼女がいたら、他の女の人を助手席に乗せたりしないのが、私の中では当たり前だと思ってた。

だけど私がまだ座ったこともないその席に、キレイな女の人が我が物顔で乗っているのを、偶然店舗の駐車場で目撃してしまったことがある。

それが悔しくて、私はただの一度も助手席には乗ろうとしなかった。

思えば橘マネージャーが彼女はいないと話していたのもあの人だったから。

…私は全てを諦めて、今ここにいるんだ。



「…嘘ばっかり」

「本当だ。この車の助手席に乗せたのは、寧々とお前の2人だけだ」

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