ウソつきより愛をこめて
不用意に整った顔を向けられて、私はぐっと息を飲んだ。
「運転中なんだから、前向いてっ」
「じゃあ信じろよ」
こんな近くから熱のこもった真っ直ぐな瞳に見つめられると、息の仕方すら忘れてしまいそうになる。
橘マネージャーの言葉ほど信用できないものなんて、この世にはない。
裏切られたあの日から、彼のことはもう信じないって心に固く誓ったのに。
「俺を信じろ、結城」
意地でも結婚するため?それとも本当にただ私に誤解されたくないから?
出来ることなら、私をもう振り回さないで欲しい。
…そんなに真剣な顔されたら、せっかくの決意が揺らいでしまいそうになる。
「これからも他の女は乗せない。その席は寧々とお前だけのものだ」
「わかったからっ、もう前向いて!」
何度も顔を茹でダコのように染める私を見て、きっと橘マネージャーはからかっているに違いない。
隣から噛み殺したような笑い声が聞こえてくるのを、私は口元を手で覆いながら睨みつけていた。
「ほら、これ足にかけてろ」
ちょうど信号待ちに差し掛かって、橘マネージャーが後ろの席から暖かそうなブランケットを取り出して私に差し出してくる。
「…どーも」
乗せたことないって言っても、この車が買ったばかりの新車だからとかそういう理由じゃないの?
さすがにこういうところは手馴れていて、なんだか無性に腹立たしかった。