ウソつきより愛をこめて
「ママっ!ママっ?」
「あ、ごめん。えと、どこまで歌ったっけ?」
「…い、ってるーっ」
「ああ、見ーてーるー、かな」
まだ単語しか話せない寧々は、たどたどしく私に意思を伝える。
やっと見えてきた五階建てマンションのエントランス。
指で自分の部屋番号を押して、私はインターホンを鳴らした。
『遅ーい』
「ごめんごめん。最後なかなかお客さんが引かなくてさ」
『今開けるね』
自動ドアが開いて、中の温かい空気が流れ込む。
その時鼻腔を擽った爽やかな香りに、私は胸を締め付けられるような苦しさを覚えていた。
(ああ。なんか気分最悪…)
同時に今日のメールの件を思い出して、眉間に皺が寄る。
忙しくて返信は確認出来なかったけど、ヘルプの話はどうなっただろう…。
納得されなくても、食い下がるつもりだけど。
「……」
急に黙り込んだ私を寧々が心配そうに見上げる。
私は強ばらせていた表情を緩めて、寧々の頭をぽんぽんと優しく撫でていた。