ウソつきより愛をこめて
長い指が私の髪の毛を絡めとり、根元から毛先にかけて優しく梳いていく。
真剣な彼の瞳から目が逸らせなくて、私は次の瞬間とんでもない事を口にしてしまった。
「き、…気持ちよかったから。久しぶりで、ちょっと…流されちゃっただけ」
その直後面食らったような表情を浮かべていた橘マネージャーの顔が、みるみるうちに複雑そうなものに変わっていく。
「久しぶりってお前…」
「ここに来てから仕事が忙しくて、ずっとそんな暇なかったの!だから…っ」
いくらなんでも、こんないい訳は通用しないと思う。
それなのに橘マネージャーは、先程とは打って変わったように嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「そうか。…じゃあ今は、そういうことにしといてやる」
「…?」
彼の言い回しに違和感を覚えつつ、上手く切り抜けられたことに私は安堵する。
「ねぇ、そろそろ行こう」
「待てよ」
「なに、まだ何かあるの?…とりあえずこれ、離してからにしてくれない」
橘マネージャーの手は、まだ私の腰と背中に絡みついたまま。
本当はこうして触れ合っていられるだけでも嬉しいのに、いきなり素直になんてなれなかった。
だって今まで散々拒んで来たのに…、いきなり態度を変えたりしたらあからさますぎる。
ふいっと横を向いた私の両肩を、橘マネージャーが大きな手で押さえていた。
「お前だけずるいだろ。俺は覚えてないのに」
「…は?」
「もう一回キスしてやるから。…目瞑れ」