ウソつきより愛をこめて

長い指が私の髪の毛を絡めとり、根元から毛先にかけて優しく梳いていく。

真剣な彼の瞳から目が逸らせなくて、私は次の瞬間とんでもない事を口にしてしまった。

「き、…気持ちよかったから。久しぶりで、ちょっと…流されちゃっただけ」

その直後面食らったような表情を浮かべていた橘マネージャーの顔が、みるみるうちに複雑そうなものに変わっていく。

「久しぶりってお前…」

「ここに来てから仕事が忙しくて、ずっとそんな暇なかったの!だから…っ」

いくらなんでも、こんないい訳は通用しないと思う。

それなのに橘マネージャーは、先程とは打って変わったように嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「そうか。…じゃあ今は、そういうことにしといてやる」

「…?」

彼の言い回しに違和感を覚えつつ、上手く切り抜けられたことに私は安堵する。

「ねぇ、そろそろ行こう」

「待てよ」

「なに、まだ何かあるの?…とりあえずこれ、離してからにしてくれない」

橘マネージャーの手は、まだ私の腰と背中に絡みついたまま。

本当はこうして触れ合っていられるだけでも嬉しいのに、いきなり素直になんてなれなかった。

だって今まで散々拒んで来たのに…、いきなり態度を変えたりしたらあからさますぎる。

ふいっと横を向いた私の両肩を、橘マネージャーが大きな手で押さえていた。

「お前だけずるいだろ。俺は覚えてないのに」

「…は?」

「もう一回キスしてやるから。…目瞑れ」

< 121 / 192 >

この作品をシェア

pagetop