ウソつきより愛をこめて
驚きすぎて、口を開けたまま私は硬直してしまった。
なんで…なんで、ひろくんがこんなところにいるの…っ!?
「…良かった。マンションの方と迷ったけど、こっちに来てみて」
動揺する私とは対照的に、彼は甘い綿菓子みたいに蕩けそうな笑顔で笑っている。
私の幼馴染でもある彼の名は、天草紘人(あまくさひろと)
王子様みたいな優しい顔立ちで眉目秀麗な彼が、隣の家に引っ越してきたのは私が小学5年生の時だった。
5歳も年上な分頼りがいもあって、その上紳士的だった彼に、私がひと目で夢中になったのは言うまでもなく。
ずっとずっと彼を追い続けていたから、中学でも高校でも私はろくに恋愛すらしなかった。
「変わったね。すごく大人っぽくなって綺麗になったから、一瞬分からなかったよ」
唇が震えているのは、きっと寒さのせいじゃない。
「な、何言ってるの?それを言うなら、マリカだって…」
その名前を出した瞬間、明らかに彼の表情が暗くなったのがわかる。
ひろくんがお兄さんになるってわかった日、私は悲しくてたくさん泣いた。
でもそれは、大事な2人を同時に失ったような気がして寂しかったから。
再会してみて、ヒロくんへの想いは恋ではなく憧れだとはっきりわかる。
…それに気づかせてくれたのは、紛れもなく橘マネージャーだった。
「…寧々は?」
ひろくんのトーンが急に落ちて、私は固く唇を結び息を飲んだ。
「エリカが預かってくれてるんだよね?」
今までは幼馴染のお兄ちゃんの顔をしていた彼が、父親の顔に変わったから。