ウソつきより愛をこめて

「……」

黙って頷いた私を見て、ひろくんが安心したように目を細める。

「ごめんね…色々。エリカは仕事も忙しいのに」

「…ううん。ねぇ、マリカは?今どこにいるの?」

あの時必死で涙をこらえていたマリカの様子が、頭から離れない。

そう聞き返すと、ひろくんは気まずそうな顔で口を一旦噤んでしまった。



「…マリカはまだ、寧々に会えるような状態じゃない」

彼は苦しげな表情のまま、視線を私の足元に落としていく。

「ひろくんが、何かマリカを悲しませるような事したの?」

どこから見ても、幸せそうだったふたり。

それがもう遠い昔のことのような気がして、胸がまるで針で刺されたように痛くなってしまった。

「私…迷惑じゃないから。寧々のこと、マリカが迎えに来るまで預かってる」

「エリカ…」

「約束したの。一ヶ月経ったら、ちゃんと自分で寧々のこと迎えに来るって」

「…そうだったのか」

「話、聞いてないの?」

「俺がやっと聞き出せたのは、寧々をエリカに預けてるってことだけだよ。エリカがそう言うなら、申し訳ないけど任せる。…出来れば…詳しいこともゆっくり話したいんだけど…」

私だって、ひろくんに聞きたいことがたくさんある。

でももうすぐ橘マネージャーと寧々がここへ来てしまう。

頭の整理もつかない今の段階での鉢合わせだけは、なんとか避けたかった。

「ごめん、ひろくん。今日は時間遅いから、このまま帰って?連絡先教えるから、また日を改めて…」

スマホを取り出して、手早く赤外線を起動する。

ひろくんにスマホのデータを送信しようとしたその時、ディスプレイが着信画面に切り替わっていた。

< 128 / 192 >

この作品をシェア

pagetop