ウソつきより愛をこめて
「……」
黙って頷いた私を見て、ひろくんが安心したように目を細める。
「ごめんね…色々。エリカは仕事も忙しいのに」
「…ううん。ねぇ、マリカは?今どこにいるの?」
あの時必死で涙をこらえていたマリカの様子が、頭から離れない。
そう聞き返すと、ひろくんは気まずそうな顔で口を一旦噤んでしまった。
「…マリカはまだ、寧々に会えるような状態じゃない」
彼は苦しげな表情のまま、視線を私の足元に落としていく。
「ひろくんが、何かマリカを悲しませるような事したの?」
どこから見ても、幸せそうだったふたり。
それがもう遠い昔のことのような気がして、胸がまるで針で刺されたように痛くなってしまった。
「私…迷惑じゃないから。寧々のこと、マリカが迎えに来るまで預かってる」
「エリカ…」
「約束したの。一ヶ月経ったら、ちゃんと自分で寧々のこと迎えに来るって」
「…そうだったのか」
「話、聞いてないの?」
「俺がやっと聞き出せたのは、寧々をエリカに預けてるってことだけだよ。エリカがそう言うなら、申し訳ないけど任せる。…出来れば…詳しいこともゆっくり話したいんだけど…」
私だって、ひろくんに聞きたいことがたくさんある。
でももうすぐ橘マネージャーと寧々がここへ来てしまう。
頭の整理もつかない今の段階での鉢合わせだけは、なんとか避けたかった。
「ごめん、ひろくん。今日は時間遅いから、このまま帰って?連絡先教えるから、また日を改めて…」
スマホを取り出して、手早く赤外線を起動する。
ひろくんにスマホのデータを送信しようとしたその時、ディスプレイが着信画面に切り替わっていた。