ウソつきより愛をこめて
橘マネージャーからの着信に驚いて辺りを見渡すと、彼の車がハザードランプを灯しながら、反対車線の路肩に停車しているのが雑踏に紛れて辛うじて見える。
「あ、ごめんね?」
私は慌ててその着信を切り、再度ひろくんと連絡先を交換した。
「エリカ、俺今仕事で出張中なんだ。二十五日には帰るから、出来れば明日か明後日の夜に会って話がしたい」
「え、そうなの?わかった。迎え来ちゃったから、またあとで連絡するね」
「うん。寧々のことも、よろしく頼む」
済まなそうに頭を下げるひろくんに向かって手を振り、なるべく早足で横断歩道を渡りきる。
停めてある車の後部座席に乗り込むと、暖房の温かい空気が一気に私の身体を包み込んでいた。
「遅くなっちゃてごめんね~…」
助手席に身を乗り出した私は、いの一番に寧々へ声をかける。
「あれ…」
なかなか返事がなくて顔を覗き込むと、寧々は背もたれのシートに深く身を預け、可愛い寝顔ですやすやと眠ってしまっていた。
「家を出る時はテンション高くてご機嫌だったんだけどな。運転で三分目を離したらこうだ。…で?お前はお前で、何のんびりやってたんだ」
運転席から聞こえた声はどこか不機嫌そうで、私はうっと呻くようにして身を竦める。
「ご、ごめん…実は」
適当な言い訳を並べようとした私を、氷のように冷たい声が遮っていた。
「助けてやろうとしたのに、なに人の電話切ってんだ。…まさかお前、あのナンパ野郎と連絡先なんて交換してないだろうな」