ウソつきより愛をこめて
「え、いや…」
「大体俺は中で待ってろって言ったよな。…なんでお前はいつも俺の言うことが聞けないんだっ」
矢継ぎ早に責められて、言い返す隙もない。
「…なんか橘マネージャーってお父さんみたい…」
「……っ!」
ぼそっと言ったひと言が効いたのか、橘マネージャーは恐ろしいくらい目を見開いて絶句していた。
「私もいい大人なんだから、ナンパくらい適当にあしらえるし。それにさっきのは知り合いで…」
「知り合い?」
なぜか過剰に反応した橘マネージャーが、すごい勢いで私の方を振り返る。
「あんな歳の離れた奴が知り合いだっていうのか」
「…結構距離あったのに、よく顔とか見えるね」
「俺の視力は一・五以上あるから…って話を逸らすな。質問に答えろ」
態度が威圧的すぎて、まるで事情聴取でも受けている気分だ。
「知り合いっていうか幼馴染だから。それに、ひろくんは二十八歳で、橘マネージャーより一つ年下だけど」
「…なるほど。お前の初恋の奴か。随分出来すぎた偶然だな」
「出張中らしいよ。本当、すごい偶然でびっくりした」
前に向き直った橘マネージャーが、車を静かに発進させる。
先程の剣幕とは一転して静かになってしまった彼は、マンションに着くまでの間、ひと言も言葉を発することはなかった。