ウソつきより愛をこめて
全く予期しなかったことに、私の反応も遅れる。
いつもより油断していたせいか、顔が一気に紅潮してしまった。
「な、ならない…」
“うん”と一瞬言ってしまいそうになった自分が恐ろしい。
橘マネージャーといるだけでドキドキしてしまうのに、これ以上心臓に悪いことは言わないで欲しかった。
「じゃあ、…また好きになったのか」
畳み掛けるように、予想外の言葉が続く。
「えっ?」
「確か結婚してるんだろ。あの幼馴染。もういい加減諦めろ。あんな優男が好みとか、お前趣味悪すぎだろ」
「ちょっと、ひろくんのことバカにしないでよ」
マリカと何があったのかはわからないけど、私にはかっこよくて自慢の義兄だ。
例え橘マネージャーといえども、悪口を言われるのは許せなかった。
「“ひろくん”とか、父親とか、…さっきから俺をバカにしてんのか」
言葉は乱暴なのに、その表情は悲しみで歪んでいるようにしか見えない。
「ちょっと、静かにしてよ。寧々が起きるっ」
熱くなってきた彼を、唇の前で人差し指を立てながら必死に制する。
でもそれに効果はなく、片腕を掴まれた私は椅子から呆気なく引き剥がされてしまった。
「俺は、…一体お前の何なんだよ」