ウソつきより愛をこめて
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タートルネックというものを最初に考えたデザイナーに、私は死ぬほど感謝しようと思う。
「あれ、今日は残業しないですぐ上がるんだ」
「人と会う約束があるから」
「珍しー、デート…ってなわけないか」
すぐそばにいた橘マネージャーを目視で確認した美月が、舌を出しながらいたずらっぽく笑う。
相変わらずなにもなかったように飄々と働く橘マネージャーに、私は心の中で思いっきり舌を出していた。
「…デートだよ。それも、ものすごいイケメンと」
わざとらしく大声でそう言うと、橘マネージャーの肩が一瞬びくっと揺れる。
「え、エリカ…?」
「じゃあお疲れ様でした!」
コンシーラーでも隠せないほど濃いキスマークをつけたその人に向かって、私は無駄に声を張り上げながら店を後にしていた。
(もう、本当にムカつく…!)
彼は絶対に露ほども悪いと思っていない。
キスマークをつけるだけつけて満足した橘マネージャーは、あの後放心状態の私を置いてさっさと自分の家に帰ってしまった。
そして私には妙な敗北感と中途半端な燻りだけが残されて、またしてもひと晩中頭を悩ませる羽目になってしまったのだ。
もう、嫌われたくてやってるとしか到底思えない。
ああやって焦らして人の反応を楽むなんて、どんだけ悪趣味なんだ…。
「ごめんエリカ、お待たせ」