ウソつきより愛をこめて
「ひろくん!全然待ってないよ」
昨日と同じ駅ビルの前でひろくんと待ち合わせた私は、笑顔で彼の事を迎える。
「ゴメンな?昨日の今日で」
「ううん。私もちょうど、今日が早番だったから」
昨日はじっくり見れなかったけど、ひろくんはやたらとスーツが似合う。
これは私でなくとも、胸がときめいてしまうだろう。
「どうする?どっかでご飯食べる?」
「あー…その…」
私は視線を自分の働くビルの中に向けながら、冷静になって考えを巡らす。
いくら私が母親のふりをしているからといっても、彼が寧々の実の父親なんだ。
昨日は焦って自分が預かると申し出たとはいえ、ひろくんだって娘に会いたいに違いない。
「このビルの保育園に寧々預けてるから…一緒に行ってみない?」
父親というものが、どれだけ自分の娘に思い入れを持っているかなんて、私には想像もつかない。
もし会ってみてやっぱり連れて帰りたいと言われたら、私もその時は覚悟を決めようと思い、気を張り詰めながらひろくんに申し出ていた。
「…ごめん。本当は俺、寧々に会う心づもりが…全然出来てないんだ」
「…え…っ?」
「昨日エリカがまだ預かるって言ってくれて、…心のどこかで安心してしまった。…こんな父親、最低だろ?」
ひろくんの思いがけない告白にたじろぐ私を、悲しげな瞳が許しを請うように見つめてくる。
どう反応したらいいか分からなくて、正直困り果ててしまった。
「寧々は母親にべったりだったから。…俺には、ほとんど懐いてないんだよ」