ウソつきより愛をこめて
「住んでるとことか、知りませんか?とりあえず会社の寮とか借りてるんだと思うんですけど」
「…あ、…いや」
さっきから焦点が定まらない。
耳に髪の毛をかける左手の薬指に光ったものが見えて、驚きのあまり心臓が止まりそうになる。
「…あっ、わかります?婚約してるんです、私たち。彼ったら、仕事となるといつも連絡が疎かになっちゃって」
ひどく幸せそうに笑う彼女の顔が、私には激しく歪んで見えていた。
…どうしてなの、橘マネージャー。
なんであなたは、いつも最後に私を不幸のどん底へ突き落とすの?
目頭が熱くなってきて、視界もだんだんぼやけてくる。
…寧々だ。
間違いなく寧々の存在が理由で、橘マネージャーはこの人を切り捨てようとしている。
そんなこととも知らず、私はまんまと騙されてしまったんだ。
もしかしたら、私を求めてくれてるんじゃないかなんて、そんな幻想を抱いて舞い上がって。
…挙句また彼の魅力に、惨めにも囚われてしまった。
「あの…どうかしました?気分でも…」
「…いえ、大丈夫です」
ふらついている私を気遣ってか、彼女は白くてか弱い手を私に差し伸べてくる。
こんなに優しくて美しい人を手放そうとしてるなんて、橘マネージャーはバカだ。
救いようのないくらい愚かで、残酷なひと。
「……」
そこからの彼女の言葉なんて、耳には入って来なかった。
私の思考はもう、完全に停止していた。