ウソつきより愛をこめて
「―――リカ、エリカっ!?」
「…え?」
「良かったー、いくら声かけても反応ないから、立ったまま気失ってるのかと思ったんだけど」
「あれ…」
力なく顔を上げれば、そこには心配そうな美月とゆりちゃんの姿しか見当たらない。
朧げな記憶を辿ってみると、先程までここにいた彼女の顔が浮かんで、じわじわと私の傷を刺激してくる。
彼女は人形のように反応しなくなってしまった私に話を聞くのを諦めたのか、礼儀正しくお礼を言ってこの場を去ってしまった。
…橘マネージャーは私の家にいるって、教えれてあげれば良かったのかな。
でもそんなことしても、もう意味がないよね。
この恋に望みが残されてはいないことを、彼女のおかげではっきりと理解した。
遅かれ早かれ、彼は私の前からいなくなる。
寧々が自分の子じゃないとわかった瞬間、橘マネージャーは私を捨てて、あの人のもとに帰って行くんだ。
気持ちを伝えて余計な恥をかかずに済んで、…本当に良かった。
「ずいぶん疲れてるみたいだし、今日はもう先帰りな?私とゆりちゃんで閉店業務やっておくから」
「…でも…」
「そうですよ。ゆりは独り身だから、終わった後の予定なんて友達との飲み会ぐらいですし」
「そうなの?寂しーね。私はこの後彼のうちにお泊まりだから」
「ちょっと美月さんっ、さりげなく自慢しないで下さいよ!」
目に涙の膜が張っていくのを感じて、私は慌ててそれを拭う。
「…二人共…本当にごめん」
「いいクリスマスになるといいね」
美月にそう言われても、私は笑って返事することなんて出来なかった。
…私はやっぱり、クリスマスにいい思い出なんて作れないみたい。