ウソつきより愛をこめて
駅ビルを出てから自分のマンションまでどうやって帰ったかなんて、全然覚えていない。
ひとりになっても泣かなかったのは、冬の凍てつく寒さのおかげで痛みが麻痺してしまったからだろう。
このままずっと心が麻痺して何も感じなくなってしまえばいいのになんて、ありもしないことを私はぼんやり考えていた。
(…また、同じことの繰り返しか…)
私はこれから長い時間をかけて、彼のことを忘れなくてはいけない。
今回はもう…それがどれくらいかかるのか、あまりに途方もない時間に思えて見当さえつかなかった。
二年前よりもずっと深く、心は傷ついている。
出来ることなら、このまま帰らずにどこかへ逃げてしまいたいくらいなのに。
「……」
なんでこんな時でも頭に浮かんでくるのは、彼の笑顔ばかりなのだろう。
なんで騙されたとわかっているのに、私は彼をすぐに嫌いになることが出来ないんだろう。
「お前なんで歩いて帰って来るんだよ。電話すれば迎えに行くって言ったろ」
玄関を開けてすぐに飛び込んできた橘マネージャーの姿に、胸が嫌な音をたててざわめきだす。
「……」
それに無視してブーツを脱いでいると、急に肩を掴まれ、無理やり彼の方を向かされていた。
「顔真っ白だぞ。ほら、こんなに冷たくなって…」
大きな手のひらがいきなり私の頬を包み込んできて、その温もりが凍てつく肌を伝わって浸透してくる。
…そうやって心配するふりなんかされても、もう私は騙されない。
「触らないで」
感情を全く共わないような冷たい目をむけると、彼の長い指がピクっと小さく反応していた。